2016
02.23

青慎の出仕5

Category: 青慎の出仕
青慎の出仕シリーズの続きです。
李順さん、何を言い出すのでしょうか。

気になる方は、先へお進みくださいませ。

【青慎の出仕5】
*******************


・・・・・・。

李順さんの目が光っている。
これは...聞いてはまずい話なんだろうか...。

...仮に、理由を聞かなかったとしても、
何らかの形で口止めはされるだろう。
正妃の弟が庶民出身であることは知られてはならない。
それならば、いっそ全て聞いてしまった方が
いいのかもしれない。

李順さんを真っ直ぐ見た。

「構いません。教えてください。」

李順さんは一瞬目を見開いたが、
すぐににっこり微笑んでこう言った。

「いい覚悟です。」

李順さんは話し始めた。



* * *


「ええと、最初からお話しした方がいいですかね。
夕鈴殿は実は掃除婦ではなく臨時花嫁だったんです。
陛下の縁談除けのための...」

「....臨時花嫁?」


「内乱制圧後から降るように縁談話が来ましてね。
いずれはしかるべき御方を迎える予定でしたが、
未だ国が落ち着いていませんでしたからね。
縁談除けのため臨時花嫁を雇うことにしたんです。
臨時花嫁の仕事は順調でした。ただ....」

「ただ?」

「一つ誤算が生じました。」

「誤算?」

「陛下が彼女を気に入りすぎてしまったことです。
それは貴方の方がご存知でしょう?
夕鈴殿が帰省するとき、必ずどなたかが一緒にいませんでしたか?」

李順さんは、ちらと陛下の方を見た。

「.....はい。」

確かにそうだ。
姉さんが帰るときはいつも李翔さんが一緒にいた。
どちらかといえば李翔さんの方が執着していた感じだ。

「陛下が夕鈴殿を手放せないでいる間に、王宮の空気が悪くなってきました。
なかなかお世継ぎのできない妃に見切りをつけ、王弟を次の王にと望む声が出始めたのです。
このままでは勢力争いに巻き込まれて命を落とす危険があったので、さすがの陛下も手放すことを決め、彼女を解雇しました。

陛下は彼女が今まで通りの生活を送ることをお望みでした。
しかしながら、王宮の勢力争いは下町にまで及ぶようになりましてね。
しばらく王都から離れていただくことにしました。
いずれは家族のもとに戻れるようにと期間限定で...。」

「それで...2年...?」

「いいえ。
実際、夕鈴殿が王都に戻ってきたのはその半年後です。
ある夜、陛下がお忍びで下町に行った際に夕鈴殿を連れてきました。
何故か王都を離れたはずの方が下町にいましてね。」

と言って今度は姉さんの方を見る。姉さんは気まずそうに笑った。

「話がそれました。
数日後。陛下が仰せになりました。夕鈴殿を正式な妃にすることに決めたと。

正直なところ、私は反対でした。彼女は庶民出身で何の後ろ盾もない。
さらに陛下は他の妃を娶る気はないと仰る。
後ろ盾がない唯一の妃なんて、政敵から見れば格好の標的です。
臨時花嫁の時も命を狙われてきましたが、今後は一層激しくなります。

それに正妃ともなると、今までと違って中途半端なことはできません。
立后にあたり、それなりの身分も必要です。
つまり、家族の元にはもう戻れなくなる。
その覚悟があるのかと夕鈴殿に問いました。
中途半端な覚悟なら、諦めていただいた方が幸せですから。」

李順さんは話を一旦やめ、僕の方を見た。
そしてふっと笑う。

「即答でしたよ。
先ほどの貴方と同様、真っ直ぐに私の顔を見て。

王都を出るときに覚悟をしていたと。
この先どのようになっても後悔はしないと。

その顔に迷いはありませんでした。
それで私も覚悟を決めました。」


.....。黙って李順さんを見た。


「その後、夕鈴殿は李家の養女になりました。
ご挨拶もなかったことお詫びします。

正妃教育、および正妃としての公務が忙しかったのもありますが、命を狙われることも多々ありましてね。
狼陛下は敵が多いですから。
下町の家族も狙われる可能性が高かったので、連絡はできませんでした。
それが2年近く音信不通だった理由です。」



* * *

......
命を狙われていた?姉さんが?
そんなものが日常だった?2年も?
血の気が引く。


「今も....ですか?」声がのどに引っかかる。

「かなり減りましたがね。無くなった訳ではありません。」


李順さんは事務的に答えた。
姉さんの方を見る。


「......姉さん。本当なの?」

姉さんは苦笑した。

「あ、でも....、思っているほど大変ではないのよ?
陛下や浩大...あ陛下の隠密ね...李順さん...皆が守ってくれているから...。」

慌てて言い訳する。でも答えは肯定だ。


「...........姉さん。今幸せ?」


それでいいの?後悔していないの?
聞かずにはいられなかった。
姉さんは、一瞬きょとんとした顔をした。
そしてすぐに「幸せよ。」といった。

「命を狙われていても?」

「陛下がいてくださるから....大丈夫」

陛下さえいてくだされば怖くないのよと幸せそうに笑った。
姉さんのこんな笑顔、初めて見る。

ああ...幸せなんだ...。本当に。
いろいろ言いたいこと、聞きたいことはあったけれど...もういいや。
姉さんが幸せなら。

「そっか...。姉さんが幸せなら...。よかった。」

涙が出そうになって下を向いた。

姉さんはもう一度僕を抱きしめ、
宥めるように背中をたたいた。


* * *

やっぱり姉さんは温かい。
だんだん落ち着いてきた。


顔を上げると、李順さんが声をかけてきたた。


「落ち着きましたか?」
「はい。」

僕が落ち着くまでの間、待っていてくれたようだ。

「では...話の続きを。さて...青慎殿。」

「はい」

「ここまで聞いたからには、貴方には私の手足となって働いていただきます。
これが条件です。」

「............。」やっぱり。

「実は、登用試験に合格した時からこちら側に引き入れることを考えていました。
ただし研修後すぐではなく、頃合いを見て政務室に異動させる予定でした。
研修中の噂も聞いてましたが、まさか配属の際に方淵殿が強く推してくるとは思いませんでしたね。

今日の仕事ぶりを見てました。
もう少し各部署との調整に難航すると思ってたら、まさか全部署から承認とってくるとは...。
それをみて決めました。
 
政務室の人達の中にはあなたが夕鈴殿の弟だと感づいた人もいるでしょう。
貴方と夕鈴殿は面立ちがよく似ている。
勢力争いに巻き込まれる前にこちら側にいてもらった方がいい。」

そこで、李順さんは言葉を区切った。

「それに....」

「それに?」

「貴方がいれば、陛下が仕事します。」

「...はい?」

「陛下は隙さえあれば、私の目を盗んで妃の元へ行こうとします。
その間の仕事はすべて私任せです。
見てくださいこの量を。」


見ると書簡の束が山になっている。今にも崩れそうだ。


「仮に陛下が抜け出しても、貴方がここにいれば夕鈴殿が戻します。」


その理由もどうなのと思うけれど、李順さんの目は真剣だった。
ふと陛下の方を見ると......いつの間にか姉さんにじゃれついていた。
下町で見た二人の姿を思い出す。

「...つまり...いつもあんな感じってことでしょうか?」

「.....ええ。全くその通りです。」


ぎりと奥歯を噛みしめる音がした。
....どうやら相当振り回されているらしい。
未来の自分の姿と重ねて苦笑いする。


「陛下、雰囲気が政務室と随分違いますが...」

「あの姿も陛下の一面です。政務室の面々は知りません。」


恐らく極秘事項だろうに随分手の内を見せる....。
そう思って気づく。
そうか、もう囲い込まれているんだ。
....これは逃げられないってことかな。
まあでも、既に答えは決まっているけれど。

李順さんを見た。

「李順さん。僕はここに必要ですか?」

唐突な問いに李順さんは少し驚いた顔をした。
だけど直ぐに答えてくれた。

「そうですね。必要です。」

「それならお受けします。僕でお役に立てるなら。」

迷いはない。
陛下と姉さんの方を見る。
視線に気づいたのか、二人ともこちらを向いた。

陛下が近づいてきた。

「青慎君、今まで騙した形になってすまなかった。
約束する。君のお姉さんは私が一生かけて守る。」

狼陛下でもない
李翔さんでもない
穏やかな目の陛下がそこにいた。
きっとこれが本当の姿なんだろう。

「もったいないお言葉です。父もきっと喜ぶでしょう。
 陛下、姉をこれからもどうぞよろしくお願いいたします。」

深々と礼をする。
そして李順さんに向き直る。

「これからよろしくお願いします。」



つづく
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